月と六ペンス

サンセット=モーム 月と六ペンス

 モームの代表作「月と六ペンス」はゴーギャンの伝記に暗示を得た作品、と大抵の解説書に書いてある。そしてそこから連想される本当の天才の苦悩だとか通俗性の諸悪だとかそういうテーマであるんだろうなぁという暗黙の解説も含めた解説はとても正しい。正しいと言うのはこの本を読まない人間にあらすじと主観を一度に伝えている点で解説として正しく機能しているという意味だ。

 ということを踏まえて、この話はある作家がひたすら天才画家の後をおっているという点に誰も触れないのはどうしてなのか。文学と美術は同じ芸術という枠の中で言語化される芸術とそうでない芸術として対照的な位置にある。作中の画家は結果的に絵画に高額な価値がつくことになったが、それ以前からこの作家は画家を追い続けている。この作家が言う「天才」とはただ言語化されない芸術に対しての憧れと奇抜な行動が魅力的だったからではないだろうか?天才や特殊能力は他者と比較してその特殊性が浮き彫りになるが、ひたすら作家の点から画家の特殊性を書き出そうとしてもやはりそれは憧れの域を超えるものではないと思う。