リリス

G=マクドナルド 荒俣宏訳 リリス

 めくるめく幻想の世界が「ルイス=キャロル」や「ミヒャエル=エンデ」以上の世界の大きさがあり、読み進めていくのに難しい部分と簡単な部分の両極端があって、この話は純度の高い幻想小説なんだなぁと思いました。その多彩ぶりが鮮やかすぎて光の三原色のように白く飛んじゃっているように感じます。
 ストーリー終盤になると、その裏にダンテの「神曲」がちらつきます。ダンテは案内人に導かれて天国までの道行きをたどりますが、こちらの主人公ヴェインは無理矢理ふしぎの世界に引き込まれて「眠り」を強要されて拒絶したことによってその負い目から、最終目的として「眠り」を得るためにいろいろ歩き回ります。この「眠り」が「神曲」での天国のようだけれども、「眠り」はあくまで目覚めと対になっているもので、恒久的なものではないです。しかも「眠り」と目覚めの間には「夢」もあってやっかいな目的だなぁと、そのままやっかいな状態での幕がまた幻想小説として濁った余韻が味わえます。