香水 ある人殺しの物語

パトリック=ジュースキント 香水

 ずば抜けた嗅覚を持つ主人公が最終的に神の匂いを手に入れたという話。その神の匂いとは女の子の匂いであってちょっとがっかりしてしまう人は多いと思う。第二部のパリの香水屋での栄光は私たちに馴染み深い素晴らしい「香水」ととどまらない欲の話であるから、対比することで主人公の特殊能力やそれゆえの感情もわかりやすい。けれども山にこもる第三部や至高の香りを作り始めるとその特殊能力だけの世界になって逆に能力のすさまじさが伝わってこない。

 副題にある人殺しの物語とあるとおり、彼は神の匂いを作るために多くの女の子(たぶん処女だろうなぁ)を殺す。しかしそれ以前に彼に関係する人全てが事故や不遇の死が訪れているところに彼が殺しているのだということを感じる。彼の能力は人間の五感のひとつ、まさに人の命を吸い取って成立するような雰囲気がある。てっきりそういうことで人殺しなのだと思っていた。

 そして最後、匂いを全てまとって浮浪者に喰われて終わる。摂取するという行為と香りの関係に疑問が残る。